おしぼり

「いやー、もうあそこのラーメン屋には行かないかな」

僕は帰宅早々、嫁に今日の話をしていた。
何かというと、ランチに子供と食べたラーメン屋の話である。

みなさんもラーメンを食べた後に、
「ここのラーメン屋はもう二度とは来ないかな」
って感じたことは少なからず一度や二度ぐらいは経験があるのではないだろうか。

その理由は人それぞれで、
単純にラーメンが美味しくなかった。に始まり、
接客態度が悪かった。
客層が悪かった。
値段が高すぎる。
といった所だろうか。

だが、今回はそのどれにも当てはまらない。

こんな理由でラーメン屋に来ないと思ったのは初めてで、自分自身でも驚きだった。
そのラーメン屋は前から好きで、ニンニクがガツンと効いた一度食べたら病み付きになる味だ。
しかも、ラーメン屋には珍しくお子様メニューが存在し、そのクオリティも申し分ない。
店内には子供椅子もあり、ちゃんと子供用のお皿とフォーク、スプーンも出てきた。
勿論、大人用のラーメンの出来も最高だ。美味しく完食させていただいた。

「そんなに良かったのなら、リピートするでしょ?」
ごもっともである。
ここまでの話の流れであれば。

だが、そのお店には悲しきかなオシボリが無かった。
そう、
『リピートしない理由』とは、その店にはオシボリが無かったという、たったそれだけのことだった。

恐らく、独身時代であれば特に気にせず・・・というか、
むしろ出されてもおしぼりを使わずに食べる事もしばしばあったくらいで元々そんなに神経質ではない。
「オシボリでちゃんと手拭いた?」
と、今でも嫁にも叱られるくらいで、オシボリの存在価値とはその程度のものだった。

しかし、である。
子供が出来てからこの価値観は180度変わってしまった。
なぜなら、子供と一緒にラーメンを食べるとまぁ、器用に散らかしながら食べる。
何故そうなるのとツッコまずにはいられないぐらい、辺り一面がスープでベトベトになり、
手も口の周りもベトベト、酷い時は顔と服とズボンまでラーメンまみれになる。

それは分かっていたのだが、あいにくこの日はバッグにウェットティッシュを入れ忘れていた。
これは、元はと言えば忘れた自分が悪いというのは百も承知で、
正直、入店するかどうか迷っていた。

しかし、いざ勇気を振り絞って入店してみると、
お子様メニューがあり、子供椅子まであり、奥の二つしかないテーブル席に通されたということは、
これはつまり
『子供でも大歓迎!汚すのなんてへっちゃらさ!どうぞ気の済むまで食べていってね!』
という許可証を得たようなものだ。
「うんうん、ちゃんとこの店は分かっているな」
と思っていたのに、見事に大どんでん返しをくらってしまったのである。

【オシボリとは、『お・も・て・な・し』である。】

この一件の後、こんなちっぽけなオシボリごときが気になって気になって仕方が無くなり、
早速グーグル先生で調べてみた。
すると、『東日本おしぼり協同組合』なる団体が出てきたので、ポチッとしてみた。
<公式HPはコチラ↓>
http://www.hok.or.jp/

HPを開いて、まず目に留まるのが、
『おしぼりは日本伝統のホスピタリティーである』
いうキャッチフレーズだ。

「おお、なるほど。これは日本の文化や歴史に関するの臭いがプンプンするぞ」
と、続けて見てみると、以下のようなことが書かれていた。
一部ご紹介しよう。

【文化】

喫茶店、居酒屋などで、日本の“おもてなし”精神を象徴する国民にとって最も身近な物
外国雑誌などでは「疲れを癒す白くて小さな名脇役」「もう世界に隠せない居酒屋で味わう隠し味」と紹介されている。

 

【歴史】

おしぼりの歴史は、『古事記』や『源氏物語』が書かれた時代まで遡る。
前身となっているのは、お公家さんが客人を家に招く際に提供した、“濡れた布”。
江戸時代になると木綿の手ぬぐいが普及する。
旅籠(はたご)と呼ばれた宿屋の玄関に、旅人のために水を張った桶と手ぬぐいが用意されるようになる。
客は手ぬぐいを桶の水に浸してしぼり、汚れた手や足をぬぐった。
この“しぼる”という行為が、おしぼりの語源になっていると言われています。
こうしておしぼりは、客人や旅人の汚れた体をきれいに拭うため、
そして疲れを癒すために欠かせない存在となっていきました。
(※東日本おしぼり協同組合 HPから一部抜粋※)
ふむふむ、なるほど。

確かに、居酒屋に行ったら、まずはおしぼりで顔を拭いて「うひゃ~~!」とか「あぁぁーー!」とか言うのが、
正しいオヤジの流儀だ。
あれがあってこそビールの美味しさも倍増するというものである。

そういえば、コンビニですら弁当やサンドイッチを買ったら、使い捨てのオシボリが出てくる。

ちなみにちなみに、僕が勤めている会社では貸し会議室をやっていて、会議室の通路にはおしぼりを置いている。
これがやはり好評で、4年ほど前から継続している。

夏場はひんやり、冬場はあったかく。
心と体を一瞬「ホッ」とさせてくれる名脇役。
もしかしたら、うちの会議室をリピートしてくれる要因の1つになっているとさえ感じる。

たったあの小さなおしぼりがあるかないかだけで、
リピートするかしないかを決定づけてしまう。
些細な事にも、ビジネスのチャンスもピンチも隠れているんだなと感じた出来事であった。